中野のキーマン100人に会う

区内全域の商業活性化へ~商店街を再活性化する唯一の打開策とは?~【中野のキーマン100人に会う:その4】藤原秋一(エフ・スタッフルーム)[後編]

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[前編]から

これまで中野生まれが続いたこのシリーズに初めて、区外出身ながら中野をこよなく愛し、中野を大いにアピールしている仕掛人が登場。前回の土橋達也さんからのご紹介いただいた株式会社エフ・ス タッフルームの藤原秋一社長である。

先日、妻と二人で夕食に出かけた際に、来街者と思しき女性たちが中野について語る光景に出くわした。その光景は私に無情の喜びを呼び起こした。中野の人が中野を愛するのは当然。来街者が中野を愛するまでに至るのは、それだけ中野の街や人に魅力がある証拠である。奇しくも、その時に居 合わせた女性たちは藤原さんの会社が発行する『おこのみっくすマガジン』の編集者であったのだ。そんな巡り合わせの中、お時間を割いていただいた藤原さんに、中野に対する想いや、今後の中野のまちづくりについてのご意見を伺った。IMGP7506

藤原  先ほど市川さんがおっしゃった駐車場でのジャンケン大会の例ですが、「小さいながらがんばっている なぁ」と想いを抱かれたというエピソードは非常に心強いことだと思います。ただ、そのインセンティブによる 集客効果は近隣数百メートルです。面として広がりを持たせるには、いくつかの商店街が同じベクトルで 歩調を合わせる必要があり、それが困難を極めます。

近年増えている外国の方や留学生の方が中野の街を歩いている風景を想定して、どんなインセンティブ を与えられるかといったことを、今の商業団体や商店街の代表だけでは考えきれないですよ。その体力が 残っていない。だから体力のある人たちが、必死に考えて、チャレンジしていく風土づくりをやっていきたいと 思います。「中野セントラルパーク」とか「新井薬師梅照院」とか、材料はいっぱいあるわけですから、たくさんのコラボレーションをしていけば、その中から成功のベクトルができてくるわけです。5つくらいビジネスのフ レームを試して、良いものから残そうというように考えられる人がいるから、人が集まり始めるわけですよ。

市川  なるほど。その為の具体的な施策というものはありますか?

藤原  今年の 8 月 1 日に中野サンプラザ前広場で、中野区商店街連合会(区商連)・中野区商 店街振興組合連合会(区振連)が主催し、中野区役所が後援する、プレミアム商品券を用いた『 レミアム縁日』というイベントがあります。

このイベントをうちの会社が受託事業者になって実施するのに当たって、ひとつだけ、どうしても守りたかった条件がありました。それは中野に 10 ブロックある全エリアの商店街から最低 1 軒ずつでも、何でもいいから出店していただくことです。そして、ほぼそれに充足できるだけの数が今揃いつつあります。その中には、区商連・区振連に入っていないお店が新たに加盟された例が出てきている。

区商連・区振連は今では余程のことがない限り新規加入がありません。固定化した連合会は活性化し ません。でも、お互いにメリットが共有できるようにすれば「入ってみよう」、「良いことがあるな」、「これなら 手伝えるな」という空気を作れます。その実験場として、プレミアム商品券を使って掘り出し物のお店に出 会えるという企画で、いろいろ議論はあったと思いますが、最終的にはお任いただくことになりました。

市川  区商連で元気なのは 3 ブロックくらいで、それ以外は、灯が消えかけています。街路灯の維持で 手一杯。これから商店街はどうなるのだろうと考える時に、連合会も全区を網羅できていません。プレミア ム商品券をキッカケにして、第 1~第 10 ブロックまで全員が参加する縁日という企画は、以前の元気を もう一度引き出す装置になり得ますね。活気があるところではみんな頑張りますが、賑やかさがないところ では、やっぱり元気がなくなっていきますよね。

中野区商店街連合会の各ブロックに入会していない商店が街中には数多く見受けられる。しかし、怯ます諦めず、好評完売したプレミアム商品券をインセンティブに、元気な商店に加入を促し、連合 会組織率アップを目論む。そして既成の商店と新たな商店を混在させ、活気ある商店街の復活を願う藤原さん。実に、頼もしい限りである。IMGP7270

藤原  多くの商店街の現状は、致し方なしと言ってしまえば致し方なしです。日本全体が高齢化していることに加えて、いくつも事情も重なっています。ただ、今おっしゃっていたとおり、非常にわかりやすい筋道があります。イベントをやるときには、商店街からは少なくとも誰かは代表出店して、その場の活気を持ち帰ること。例えば開催場所が中野駅北口周辺であっても、「あちらの商店街から出店された焼肉屋はうまいね!こんなにうまい 焼肉屋があったね!山形牛のA5クラスをそろえた牛焼肉が食べられるんだね!」と、話題が広がる訳です。

市川  中野にそんなお店があるの?

藤原  実は、上高田にあるんですよ、もうすぐ4年目かな(笑)。

市川  へぇ、知らなかったなぁ!それは、ぜひ行ってみたい(笑)。

藤原  もうひとつ有名な話で、PINの店(パンの店)って中野ではめちゃくちゃ有名でしょう?『野の逸品グランプリ』という企画で何度も評価されて有名になったんですけれど、実は、区商連に入ってなかったんですよ。でも、今回加入していただけました。

市川  それは良かった。

藤原  どんな手段を使っても新規加入したくなる商店街にしなければならない。例えば、プレミアム商品券を取り扱うためには加盟店になる必要があります。加盟店になるには区商連に入らなければいけません。そういうステップやシステムを各個店に無理をかけず作ることで、エリア内の意欲的な商店が増える。既存の商店と接点が生まれ、新たな刺激が伝播していく。元気な店は、売上や利益に対して非常にシッカリとした考え方をされています。だから、商店街を活性化する企画に参加するメリットも見定められます。店の親父さんと膝詰めで話をしなければいけません。

もっと言うと、商店街エリア以外の場所にあって、すごく集客を頑張っている良い商店があります。私はそれを”街区外商店街”と呼びたいと思っています。そういう今までの商店街に入ってない商店が区内には500や1000はあります。この人たちは、駅から離れているから、頑張って店まで人を呼ぶ、固定客を増やす工夫に必死に取り組む。ここを捨ておくと、今後4年のプロセスの中で痛い目を見ることになるだろうと思います。

市川  それは私も非常に危惧している点です。『中野の逸品グランプリ』は良い例だと思います。入賞したお店が区商連や食品衛生協会に加盟しているかというと、必ずしもそうではありません。私は参加資 格要件に入れた方が良いと思います。そうやって加わった新しい力が、既存の組織にも活気をもたらすことになりますよね。活力あるお店を作っている人というのは、やっぱり数字に細かいですよ。緻密だから店が 流行る。

藤原  丼勘定ではないから、生き残っていくのですよね。

市川   商店街組合に入ってなくても「俺はやるぞ!」という気概を持っていらっしゃる。そういう方々が商店街組合に入ってくれないと、これからの商店街は成り立ちません。

藤原  その通りだと思います。ひとつ付け加えるとすれば、そこには競争原理が働いていなければいけませ ん。市川さんは先ほど、活力のある店は数字に細かいと仰いました。それは、俺は他の店には負けないぞという気持ちの表れでもあります。しかし、残念ながら今の商店街全体で競争原理が働いてない。これは致命的だと思います。

競争原理をどうやって作っていくのかという点が、『逸品グランプリ』をリニューアルさせていただく時の条件で した。一般の消費者が食べて美味しいかどうかという感覚は多少曖昧ですが、それでも初めて競争の原 理が働き始めました。少なくとも”投票数で決まる”ということは、当然そこに参加するのは条件の整った店 で無くてはいけません。食品衛生上もそうだし、区商連という団体を一緒になって支えていこうという気概 もそう。

どこまで出来たかは分かりませんが、私が関わった3年で下地は整備できてきたと感じています。私が辞めてからも3回実施されていますが、少なくともこの企画に参加すれば競争できる仕組みは残してもらいたいですね!

藤原さんが関わった『中野の逸品グランプリ』に入賞している商店でさえ、これまで区商連に加盟して いない店舗も多かったという。生粋の地元商店との間には確かにハードルが存在する。その中には「街区外商店街」というものも存在する。既成の商店街では、後継者難から競争力が働いていない 例を見受けることが多い。その点、後発組となる「街区外商店街」に該当する商店ではしっかりと競 争の原理が働いている。新たなブランド力は競争の中から育っていくという視点は忘れてはならない。IMGP7438

藤原    「俺のところが一番だよ!」って言いながら煽り立てるということについて、皆さんが非常に嫌がりますから、まずはそれを乗り越えなくちゃいけません。当初は『逸品グランプリ』も壁にぶつかりました。

市川 しかし、今まさに大きな壁にぶつかっているのが商店街の現状ですよ。埃を被った商品を陳列して あったり、蜘蛛の巣がかかっていたりするお店もあります。昔は商店といえば、店を開けたら掃き掃除して店を清めて、飲食店だったら塩盛って、とかってあったでしょう?店主は表に出て「らっしゃい!らっしゃい!」 って呼びこみをしていました。商店街は声がある空間だった思うんですよ。そういう声が混ざり合って、これ まで登場いただいた方々も口をそろえて中野の魅力だと仰っていた”昭和の香り”っていうのができていまし た。それ取り戻さないといけませんね。

私の事務所が入居しているビルの地下には以前は東急ストアが入っていて、最近イトーヨーカドーに変わりました。買い物にいったら、店員さんはみんな一生懸命声を出していますよ。

藤原  商店の元気な声を”あの”イトーヨーカドーが持ち込んでいる。それがないと商売が成り立たないこと を知っているわけです。しかし、声を出したくても出せないお年寄りの方もいらっしゃるでしょう?重要なの は、既存の商店街も「街区外商店街」も、もちろんネット通販で勝負しているお店でも良いのですが、頑張って声を出しているお店が商店街組合に入って、全体に「よし!やっていこう!」という気持ちを興させる構造を作ることです。

中野には高級志向の店から立飲み居酒屋まで、頑張っている店があちこちにあります。オーナーが歳を取っていても、まだまだ若い者に負けない!と陣頭指揮の方もおられるし、2代目が業態を変化させつつ奮闘していたり、中野にゆかりのない若い人が中野に作った1号店を繁盛させ、次は世田谷に出店したり。そういう人たちが中核になっていけば、全体も盛り上がります。だから、世代ギャップをとっぱらって「元気な人」に連合会に加わってもらいたい…というのを、どう伝えれば良いかが至難の業ですが(笑)。

市川  いうなれば商店街は旦那衆の集まりですからね。そこの活力が復活することが、商店街の活性化 の鍵ですね。

中野の魅力は”昭和の匂い”の残る商店街であるということは、多くの方の共通認識である。そして また、それらの商店街は”危機”に瀕しているということも同様だ。それを再度活性化させるのは一筋 縄ではいかないが、突破口は新しい活気のある商店を既存の組織に加え、新陳代謝を促すことであると力説する。それを裏付ける証拠は、ここ数年、新しい店のオープンが相次いでいる南口のレンガ坂通りや昭和新道商店街にも、垣間見ることができるのではないだろうか。IMGP7547

市川  もう 1 つ伺っておきたいことは、中野サンプラザです。今度改修の計画があるサンプラザに対する想いや期待、どのようなものがあるでしょう?

参考:「【7/22 きょうの話題】これでいいのか?中野サンプラザ

藤原  中野駅 125 周年の記念事業として『中野 With』という一般参加者からの中野をテーマとした投 稿写真を集めて、駅の壁貼りポスターにするという企画を実施しました。かなりの数の投稿がった写真の 内、実に 20%以上がサンプラザの写真でした。この企画は中野区内の方だけが対象ではなく、区外か ら来て写真を撮ってくれた方も多かったです。もちろんサンプラザが JR 中野駅に近いということもあります。 それでも 5 人に 1 人が中野というテーマでサンプラザを撮影対象にされたということは、それだけサンプラザが中野の象 徴として絶大なものなのだと実感しました。

写真を投稿してくれた方に話を聞くと、サンプラザはコンサートがあればやってくる会場であり、”中野”とは 意識していないけれど、ここにくれば何かが見られる、文化の結節点として、意識しているということでした。 或いは、今の中野に足りないのは、気持ちよく入れる文化施設なのかもしれません。スポーツの試合や、各 種のイベント、もっと言えば『劇団四季』のような演劇などをやれる場所がないですよね。もし、サンプラザ の改修が決まっているのなら、そういう場所に変わっていくと素敵だなと思います。

市川  新宿歌舞伎町にはかつてコマ劇場があり、それによる街の発展がありましたね。新宿駅の東口に は厚生年金ホールがあり、一定の集客力によって動線ができ、駅からホールまでの間には百貨店が建ち並びました。そういった施設になれば良いですね。

中野サンプラザの建て替えに当たって、藤原さんも新らしいサンプラザが文化の発信拠点となることを 切に希望する1人である。新たな施設は「一般の人が気持ち良く訪れられること」をキーワードに、コンベンシ ョンホールであり、コンサートホールであり、文化ホールであり、スポーツアリーナであり、飲食店や特産 品のある商業床であり、業務床であり、ホテル床であるというような、多目的機能に富み、人を引き 寄せる施設を望まれる。IMGP7558

藤原  この話をするときに、絶対抜かしてはならないのは、次も「中野サンプラザ」という名称になるかは分かりませんが、そういったランドマークの名前を背負ったプロデューサーがいなくてはダメだということです。1 年間 365 日、そして
10 年間、毎日その場所のことを考えられる人材が必要です。その人は、この中野 で何かやりたい側の人間であるべきだと思います。

「秋口にはこれをしましょう!」と街側と話し合えるだけの余地が持ったプロデューサーを、数人囲っておけばいい。今までのサンプラザはそういった主体性に薄く、受動的にならざるを得なかった。来たらなんでも受けざるを得ないし、 金目のものはやらざるを得ない。でもそんな上手くは回らないのは、専任のプロデューサーがいないからです。新しいサンプラザでは、そういった引っ張っていく力のある人を潰さずに、広げていけるシステムにならないだろうか、と思いますね。

市川  プロデューサーとの出会は、とても大事ですね。誰でも「どうぞ!」と、まずは迎えいれられるのは中野の街のひとつの特徴だと思います。そこから先に必要なのは、継続です。細くて良いので長く付き合って いかれれば、どこかでまた大きく開花するという気持ちが必要なのかもしれません。中野の人たちの人情で もってね(笑)。

藤原  基本的には、今でも人情を持って付き合おうと思ってくださる人たちが中野の核になっていますよ。 でも、受け入れる気持ちのある人が少なからずいるけれど、中野での既存の事業に対する違う角度からの議論や思想を提示したときには、やっぱり定型的というか形式的というか…

市川  どうしても保守的になるのですね。

藤原  そうです。そこを乗り越えていける力が若い人たちから生まれないといけない。そして、やはり抜け落ちているのは、街とのギャップを埋めるプロセスとして 40 代・50 代・60 代からも、一緒になってコラボレーションしていく人たちです。そういった人がいないと繋がらないのです。市川さんはその筆頭かもしれません。コラボレーションは中野区の異なるエリア同士ということだけでなく、世代間コラボも重要です。若い人が上手くいったからチヤホヤするのではなくて、上手くいかない時こそ一緒になって考える、元気な中高年・老人が絶対に必要、これが私の持論です。

思いかけず面白いことやっていこうという人たちが集まって、中野への帰属意識とは違う輪ができるのが理 想だと思いますね。ぜひ、市川さんにはその先導役になっていただきたい(笑)。

川  重要な役割だと思います。それはとにかく色んな方にお会いして、話を伺って、皆さんが中野の街 のことどう考えていらっしゃるのかを知りたいというのが、このシリーズの発端でもあります。私は生まれてずっと中野に住んでいますから、ここから見える空しか知らないんです。そういう人が見ている中野と、藤原さん のように外からの目線を持っておられる方が見る中野はやはり大きく違います。今日は、示唆に富んだお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

新たなサンプラザを切り盛りするのは、年間単位の施 設をプロデュースできる人材。流石、編集・企画・制 作を手がける藤原さんの発想である。『劇団四季』に IMGP7627敏腕プロデューサーがいるように新たな中野サンプラ ザも1つの「コンテンツの発信拠点」といった大きな捉え方ができるプロデューサーは、確かに必要不可欠 であるように思う。そして生まれる世代を跨いだコラボ レーションによって、中野から新たな文化が誕生する ことを願って止まない藤原さん。この方が考えていることは、常に進化する中野には欠かせない視点だろう。

次回は、藤原さんが近年の中野駅長の中で最も柔軟で進歩的な考えをお持ちだと太鼓判を押す、 JR 中野駅の飯塚駅長に話を伺う。

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