中野のキーマン100人に会う

交流こそが観光資源。人と人の繋がりを大切に中野の活性化を縁の下で支える重要人物 【中野のキーマン100人に会う その8】深井弘之(株式会社ナカノF / 中野区観光協会 事務局長)

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中野駅北口で多目的レンタルスペース「nakano f」は、地元団体のイベントから個人主催のパーティ、ワークショップ、「マッチョカフェ」等の話題を振りまく企画まで、誰でも気軽に使える企画スペースとして個性を放っている。そんな「nakano f」を経営するのは、中野区観光協会を中心に、区内の様々な企画やイベントでも精力的に活動されている深井弘之さん。近年盛り上がりを見せている中野での様々な催しを、縁の下で支える深井さんは何を考え、その目は何を見据えているのか、伺った。IMG_2273

市川 深井さんは、大阪のご出身と伺いました。

深井 はい。大学から東京に出てきました。そのままこちらで就職しましたが20代の内に起業して、中野でお店を構えました。

市川 中野にお住まいになっているのも、その時からですか?

深井 いえ。26歳くらいの時に東中野に住みまして、その後は中央線沿線で、阿佐ヶ谷や西荻窪にも住みました。そして、5年前に中野に戻ってきました。

市川 やはり中野が良いですか?

深井 住みやすいですね。仲間が増えてくると、毎日楽しいですね。この連載第2回の長谷部さんにもすごくお世話になっています。私も、昭和新道から一本東隣の通りにnakano fという店を出していまして、今年から長谷部さんが会長をしている昭和新道商店街に加入させてもらいました。

市川 存じていますよ。1階にスタジオがありますね。商店街では役員もされているとか。

深井 はい。その他にも東京JC(青年会議所)や中野区観光協会等の活動にも参加させていただいております。

市川 そうですか。中野区商店街連合会の中で、昭和新道商店街が入っている第7ブロックは一番盛んな商店街ですね。第7ブロックが中野の商店街の基盤、言わばエンジンなんだと思います。

20歳で起業し、依頼中野で商売をされているという。最近、中野駅周辺の商店街では若者が面白いコンセプトの飲食店を数多くオープンさせているが、そのハシリだったと言ってもよいのではないだろうか。また、その若さにも関わらず、既に数々の地元団体に参加して活躍した実績を積まれているのも恐れ入る。世襲経営者も多い中野で、起業マインドを持った若手経営者でありながら、地域の力学にも精通している、それが深井さんが中野区内の企画で引っ張りだこになる秘密ではなかろうか。IMG_2297

市川 もう10年ほど中野でご商売をされている訳ですが、そうすると、中野がこんな街になったら良いなという思いもおありかと思います。近年は、警察大学校が移転して、その真っさらな土地に新しい街ができ、街が変わり始めました。今後、その影響が更に波及していくでしょう。しかし一方で、何でもかんでも新しくするのも良くないという意見もあります。深井さんが描く、今後の中野の理想図とはどういったものでしょうか?

深井 私は、中野区観光協会が今一番深く関わっている団体です。観光協会はできてまだ数年ですが、最初に戸惑ったのが「中野観光資源が何もない」ということでした。だから、観光協会として最初に考えたのは「何をするか」でした。区役所の観光政策では『里まち連携』などもありますが、私としてはもっと人が交流できる場所ができればなと思っています。私自身がいずれは田舎暮らしをしたいと思っているのですが、中野に住んでいる人が地方に行って暮らして、そこで中野の魅力を伝えれば、そこの出身の子供が東京の大学に行くとなった時に中野に住まわせようとなるのではないかと。そういうことが中野の魅力発信、中野の観光の1つになるのではないかなと思ったんです。

市川 それこそ”中野の大使”ですね。

深井 何かの物を作ったり、中野の街の中で発信したりするよりも、人が交流する方が中野の魅力は伝わると思います。その仕組み作りがしたいと思っています。

市川 区商連の折原名誉会長が「中野区観光協会は中野区が一生懸命やっている『里まち連携』を基本にして立ち上がるのが一番理想的だと思います」と、かつて仰っていました。それが、地域活動・商店街活動で様々なキャリアを積んできた彼の言葉だったんです。

深井 そうだったんですか

市川 だから、当初の中野区観光協会の立ち上げの時には、やや急ぎすぎだと感じたようですね。或いは『里まち連携』が観光協会に発展していくように想定されていたのかもしれません。彼のようなベテランが経験則の中で考えていたのとほぼ同じことを、今、深井さんの口からも伺うというのは非常に興味深いことです。街をつくるのも人、その街のコマーシャルしてくれるのも人、”発信していく”のは全部が人からです。人こそが観光資源ですね。

深井 それは今まさに考えていることですね。

市川 例えば、人の交流のために、どんなことができますか?

深井 最近、私が手がけたのが『中野ハシゴ酒』という企画です。スタンプラリーの形式で、地域の小さな飲食店のような足を踏み入れ難いお店にも1杯目は気兼ねなく頼めるような仕組みを作ることで、地域ごと楽しんで貰おうというものです。昭和新道の飲屋街や南口のレンガ坂のおしゃれな雰囲気を外から来てくれた方や、区内にいても知らなかった方にも伝えたいということで実施しました。

市川 街の中に回遊性を生み出すわけですね。

深井 そうです。今後は各商店街にも「これだったらチラシ1枚あればできるのでやってみませんか」と提案していきます。同じように、観光協会では『街バル』という仕組みを中野駅南口で3度実施した後で、鷺宮に展開し、来年はさらに各地域に広めようとしています。

市川 面白いですね。

深井 そうやって地域交流の楽しさを知って欲しいんです。商店街の方々がこれなら自分たちもできると思っていただけたら、もっと地域の方が関わってくれると思います。そのきっかけ作りをしているところです。

市川 中野は警察大学校があったおかげで、歴史的に治安がよくて、安心して出歩ける飲み屋街です。そこにこういう企画は良いですね。

深井 私も自分の店を出した時に、怖い人達が来たらどうしようと思いましたけれど、本当に何も無かったですからね(笑)。

中野区はこれといった観光資源が無い。何をするにも人と人との繋がりが観光の第一歩と豪語する。これは言い得て妙である。交流することが観光と定義づければ、人材交流、里まち交流が観光の第一歩なのである。地方都市に足を運ぶ中野人(なかのびと)が気軽に出かけた先の地方へ中野の魅力を発信する。その人材交流を果たす為に、中野の魅力の再発見が必要であり、中野の個店が持つポテンシャルを売りにした回遊性のためのイベント、『中野はしご酒、まちパル』など、きっかけづくりに励んでいらっしゃる。IMG_2237

市川 中野の魅力再発見を通して、交流の仕組みづくりをしているのですね。そして、中野で過ごした皆さんが、地方に出たり、地元に帰ったりした時に、中野の魅力を大いに宣伝し、中野を訪ねてくる人が増える。人材交流が一番の観光の源になるということですね。そこで、中野の魅力についてなのですが、ここが東京の他の街と違うよ!というのは、どういったところでしょうか?

深井 私、基本的に、酒飲みなのですが…(笑)

市川 いいじゃない!いいと思いますよ(笑)

深井 中野の飲み屋さんは店主やお客さん同士がすぐに仲良くなれて、このお店が好きなら次はここにも行ってみたらって紹介されたり、一緒に飲み歩いたりできるのはとても良いですね(笑)。私がnakano fというレンタルスペースの経営を始めたのも、当時、私自身は何ら資本があったわけでもなかったのですが、レンタルスペースだったら鍵を開け閉めさえすれば、後は飲んでいて良いじゃないかと思ったからでして(笑)。

市川 そうすれば、深井さんは外に飲みにいけると。やっぱり飲み屋さんの魅力を感じているのですね。

深井 中野の何よりの魅力だと思います(笑)。店を出してだいたい10年と申し上げましたけれども、同じくらいに昭和新道に出来たのが、長谷部さんの立ち飲み居酒屋パニパニです。当時は立ち飲み店が多くできました。同時期に出来てきたということもあって、特にそういうお店は好きで通っていますね。

市川 最近、昭和新道商店街では昭和の雰囲気をよりアピールするような「メロディアスナイト」という催しもやっていて、一層面白くなっていますね。

深井 長谷部さんの企画ですね。

市川 あの辺りは僕たちが子どもの頃には、夜になると”流し”が歩いてもいたものです。カラオケ代わりですね。その雰囲気を「メロディアスナイト」で醸し出そうと目論んでいるということですよね。

深井 人と人との触れ合いは中野の魅力だと思います。この雰囲気作りはチェーンの居酒屋ではできないことです。いくら大きなハコがあって、何十人の宴会ができようとも、そのグループが自分たちで楽しむだけで、居合わせたお客さん同士の触れ合いが生まれることはありません。

市川 個店でできる芸当ですよね。

深井 はい。結局、そういった触れ合いこそ、中野の魅力だと思いますね。

お酒大好き人間の深井さん。何と言っても中野駅北口の飲み屋さんが魅力的と言う。居酒屋さんを店から店へはしご酒、そんな大人の遊びの原点とも言えるステージに当たる中野駅北口の飲食店街が一番の魅力と薦める。小さな店で肩を寄せ合って飲む、カウンター越しに店主と語らうという経験はどこでもできるものではなく、時に思いがけない感動に出くわすことがある。これは、以前にご登場いただいた長谷部智明さんも仰っていた話である。IMG_2239

深井 お酒の話しかしてないですね(笑)

市川 ちなみに、どれくらい飲みますか、酒量は?

深井 僕はビールを大瓶だと……7本くらいですかね(笑)

市川 やりますねぇ…。私も毎日よく飲んでいました。それで、一度身体を壊してしまったんですよ。以来、一切飲んでないんです。だからね、お酒飲みの気持ちはすごくよくわかりますよ(笑)

今でも仕事柄そういう席には行きますが、ノンアルコールでお付き合いしています。ただ、ハシゴ酒のような楽しそうな企画に参加できないのは残念ですね。お酒は人と人の繋がりを強めるひとつの材料としては、恰好ですよね。

深井 中野の皆さんは、飲んでいても質が良いですしね。青年会議所に所属していた頃に、わんぱく相撲という子供の相撲大会をやっていまして、東京23区の他区からイベントの応援に来てくれたメンバーが「中野の子供たちはすごく礼儀正しいですね」と仰います。子供が、大人の言うことを聞いてくれて自主的に動いてくれて素晴らしいと。そういう気質ができあがっているのか、飲み屋さんに行っても皆ちゃんとルール守っていて、一人でも入りやすい。道徳的に恵まれた環境だったのではないかと思いますね。

市川 そういう点は、中野は山の手でもありますね。山の手だけど下町っぽい。

深井 人情深くもありますね。

市川 山の手と言いましたが、この中野駅周辺は意外と気取っていてクオリティは高いと思っているんですよ。何故かというと、街として恵まれているからです。ここの商店街は、今では人通りが絶えなくて、黙っていてもそれなりに人が来きます。これが地方都市ではそうはいきませんよ。恵まれているから、それなりに教育を受けたり、躾を身に着けたり、しています。だから、子供たちの学力も結構高いです。それらは、中野の自慢のひとつですよ。

深井 そういう美点を私の世代がどう繋げていくかというのも課題だと思います。それから、中心部だけが盛り上がって、周辺部、例えば川島商店街等はシャッター通りになっていて、そういった問題もあります。だから、さっき申し上げた『街バル』のような取り組みを通じて、盛り上がりが区内全体に広がって欲しいです。今は『街バル』自体に人気があるので、それを目当てに来て下さる人もいます。『街バル』に参加したお客さんがお店に根付いてくれるか、そういった課題はありますけど、これがひとつの機会になって欲しいですね。

市川 結局、敷居を跨ぐまでが長いんですよね。

深井 昭和新道商店街の小さい飲み屋さんは、常連さんしかいないところが多いので、いきなり入るには抵抗があります。そのハードルをどう下げるか、ちょっとしたきっかけを作りたいんです。

市川 一旦入ると人の縁が出来て、それが癖になって、扉を開けないと今日一日が終わらないような妙な習慣になったりするから面白いですよね。

中野駅周辺商店街の賑わいを如何に区全域の商店街にまで波及させていくかというのは、中野が抱える課題の1つである。若くして深井さんもこの課題を捉えていらっしゃるのは、参加された各団体での経験の賜物だろう。その為に『街バル』という全国的に知られて、人気もある仕組みの拡大に取り組んでいるのも、商店街のお客さんを増やすという意味では、非常に大きな貢献になっていることだろう。IMG_2278

市川 他にも、こうあったら中野の街はもっと良くなると思うようなところはありますか?

深井 それは、最近新たに街に入ってきている人たちをどう迎え入れかですね。大学や大きな会社にやってくる人たちを受け入れる体制がまだできていない印象があります。法人会や商工会議所などが関係づくりをしているところはありますが、まだそこまで強い繋がりはできてはいません。例えば、町会の方をどう巻き込むか。それから、30代40代で会社を興した一番動く世代が地域にコミットできていないこと。そういった巻き込みが、私たちの世代の課題だと私は思っています。

市川 そうかもしれないですね。30代40代が、地域のために動けていないですね。

深井 万が一、昼間に災害があった時に助けになるのは、その世代の人たちだろうと思います。彼らが地域にもっと密着できていれば、いざという時に体を張って動いてくれるでしょう。子育ての世代ということもありますので、子供の手本となるような地域での活動ができればより良いと思います。

市川 なるほど。子育てをしている30代40代は多いですね。学校や子供を通じたコミュニティーができています。PTAでバレーボールチームに入ったりすると、そのコミュニティーはあるけれど、「町会」という単位のコミュニティーまでには接続しませんね。

深井 横の繋がりがまだないんです。

市川 私が、いつも訴えていることなのですが、地域のお年寄りも新しい人を迎え入れる気持ちを持っているつもりで、しかし、やっぱり敷居を高くしている面はあると思います。

深井 それは僕もすごく感じます。皆さん「若い人を呼びたいんだ」と仰いますが、若者が中に入って新しいことしようとするとなかなか思うようにいかない。

市川 「そんなのは聞いてない」とかね(笑)。ある時、若い人がお神輿を担ぎに来ました。事前にちゃんと断りを入れてあったのに、当日になって「何でこんな人たちが来るんだ」という訳ですよ。「いや前に相談していますよね」「いや俺聞いてない」と始まる訳です。私みたいな立場の人間が言えば理解もしてくれるのですが、地域活動やっている青年部の人たちからだと聞き入れられない。そうすると青年部の人たちが僕の所にきて、赫々云々と話をする。若者達に良い所を取られてしまう怖れみたいなものもあるのかもしれません。でも、バトンは繋いで行くものですよ。

深井 政治家は地域のリーダーとして引っ張っていく面と、調整役的な役割と、両方ありますよね。

市川 どっちかっていうと調整役の方が多いかもしれないですね(笑)。地域のコーディネーターというほどではないけど、地方議員はそういう面が強いと思います。中野駅周辺が再開発注目されているので、地元出身で中野駅周辺の問題に強い今の私のような立場だと、特に。

深井 今、インタビューを撮っているサンクォーレビルの開発もそうですよね。

市川 サンクォーレの開発を通じて、商店街活性化も、都市計画も、地域コミュニティーのことも勉強しました。ひとつのことに取り組むと、関わる全体のことに通じていくんです。

深井さんが突いている30~40代の人たちと地域の交流は課題です。お神輿を担いでいる時に、ガードレールの内側の歩道側で見ている人と車道側で担いでいる人たちにある垣根と同じですね。『ハシゴ酒』にしても『街バル』にしても、近年盛り上がっている『にぎわいフェスタ』や『東北復興大祭典』、『中野文化祭』などの大型街イベントにしても、全てはそういう垣根を取り払おうとしてやっている訳でしょう。祭というのは”村”の絆、つまりコミュニティーを確認し合うひとつの行事ですからね。

そんな深井さんに、中野の街が抱える課題について伺ったところ、それは区外から新たに中野にやってきた人や、30代・40代の街の活動への巻き込みだという。新しい人を迎え入れる体制が未だ地域に整ってないと言う。働き盛りの30代、40代の人たちが地域の為に動いてない、否、動き機会がないのであろう。地域、特に町会の敷居を低く出来ないものか?との思いを持つ若年層の方達が多いようだ。これは勿体ない話である。分かってはいても、旧来の仕組みや考え方、古参のプライドといったものがそれを阻害するケースはまま見受けられる。このご意見、私たちは肝に銘じておくべきだ。IMG_2195

市川 中野サンプラザ・区役所エリアの一体開発がいよいよ迫っています。深井さんは、この跡地はどんな街になったら、或いは、どんな施設ができたらいいかと思いますか?

深井 外から来る方は、皆さん「中野で安く泊まれるホテルがない」と仰います。私は商店街の人間なので「いかに飲食店に人を呼ぶか」を考えると、ビジネスホテルのような素泊まりできる安いホテルがあると、中野に用事がある人が、新宿に泊まって新宿で飲食するのではなくて、中野の店に人が流れるのではないかと考えています。

市川 中野駅には快速電車が停まりますから、都心へのアクセスが良いです。東京駅にも品川駅にも30分くらいで行けます。東京駅は新幹線が全部集結しているし、品川駅には将来リニアモーターカーが通ります。そんな駅の至近距離にホテルがあると便利ですね。移動距離が短い分、新宿副都心のホテルより利便性が高いはずです。外国人観光客を想定した時にも、そんなに高いホテルには泊まっていません。だから、安宿も需要がありますよね。日本の生活を味わいたい人には人気です。中野の商店街には昭和の風情もありますから、それっぽい雰囲気の宿泊施設ならば人気が出るかもしれませんね。

深井 それっぽいというのは、日常のマンションみたいな形でしょうか?

市川 そうそう、ウィークリーマンションみたいなね。そうしたら、使用頻度は高まると思います。他の地域に行けばそれなりのシティホテルはあるのだから。

深井 どちらを選んでもらうかですよね。

深井 いろんな方の意見聞いていると、新しい飲食店街を作りたいという方もいますが、私はあんまりそれには賛成ではなくて、やはり今ある飲食店街を活かして欲しいという思いがあります。区民が憩える場所として大事にして欲しいです。

皆さんインバウンドだ何だとお話されますが、そもそも区民が楽しめる場所が実は少ないんです。先にできた四季の森公園は週末には家族連れでたいへん賑わっています。それは、中野に家族で楽しめる場所が少ないということだと思います。だから、スーパー銭湯みたいなものでもいいと思うんですけれど、1日そこにいれば家族連れが楽しいというような場所があるといいですね。

市川 同じようなことを、前回の谷津かおりさんからも伺いました。他所から人を呼び込むっていうのも大事だけれども、そこに暮らす人の視点に立った施設というのも大事でしょうね。

中野には宿泊施設が少ない。また、住環境の面でも前回の谷津かおりさんがおっしゃるように快適に子育てするには十分とはいえない。これらは、旅行者や子育て中の家族だけでなく、商店街の活性化という切り口で見てもデメリットであり、中野サンプラザ前跡地の再開発では食事が付かないようなホテルが良いのではないかという。確かに外国人観光客なども一流ホテルよりも民泊や安いホテルを好む傾向にある。ご意見が常に商店街と繋がっているところに、考えの芯が太い人柄が見える。IMG_2254

市川 さて、東京オリンピックが5年後に控えています。オリンピックを見据えて、中野ではどんな取り組みができるでしょう?

深井 それには、やはり今の商店街を大切に残していくことですね。他の街でやっているような、新しいものつくってどうこうというよりも、地道にやることが中野の魅力発信になるのではないかと思っています。オリンピックに合わせて、平和の森に体育館を作るという計画もありますよね。それは今後も区民が活用でききるものであれば良いですし、そういった取り組みも必要だと思いますが、もう少し地域密着というか、オリンピックを機会に今ある中野の面白さが伝われば良いなと思いますね。

市川 警察大学校の跡地を利用した中野セントラルパークの街づくりの成功があまりにも見事だったから、全体的に勇み足なところがあるのは否めませんね。

深井 そういう雰囲気がサンプラザ跡地一帯の再開発にはあると思います。新しいものができるということは、何か古いものが潰されていくということです。今も残っている仲見世通りの辺は一度潰してしまうともう元には戻りません。中野ブロードウェイの東側にあった四十五番街がまさにその煽りを受けました。その為に、民間でできるのは情報発信やイベント企画などのきっかけ作りですけれども、行政側にもちゃんと守ってくれるような取り組みを期待したいですね。

市川 今はハード面の整備に目が行きがちですが、新しい中野駅周辺の街づくりの中でこれから最も大事になのはソフト面の整備です。でも、ソフトとは何かって皆知りません。それは、清掃であり、治安であり、環境づくりです。所謂エリアマネジメントです。「あ、この街ってゴミが1つも無いね!」という街、「縁石に2cmの段差すらない!」と車椅子の方が感じる街。目に見えない、当たり前だと思っていることを当たり前にできる街にすることが、最後の課題になってきます。それによって呼び込まれる人が消費する。その消費力によって街の回転が良くなります。

深井 ソフト面で今中野にある特徴的なものは、アニメやマンガ等のPOPカルチャーと言われていますが、これは民間から自然発生したものですから、行政が狙ってどうこうできるものではありません。その路線がそっぽ向かれた時に、じゃぁ何が残るんだろうと考えないといけません。そういうところで、行政や区議会の皆さんが力を発揮して欲しいと思います。

5年後のオリンピックの話を向けると、まずは地道な活動を続けていくべきだと警鐘を鳴らす。今、進行中の再開発もあり、新しい何某かの導入やハード面の整備といった話に花が咲くが、価値あるものも、一度つぶしたら元には戻らないことも、忘れてはならない。また、ソフト面においても、行政や区議会は一過性の潮流に捕らわれず、普遍性のあることを期待したいとのご指摘、ごもっともである。「今の商店街を残していくこと。壊したら二度と戻らないことを肝に命じて街づくりに臨んで欲しいし、中野の魅力発信、それも地道に発信、そして地域密着の街『中野』を目指して欲しい」という深井さんの思いは一聴に値する。

市川 いろいろお話を聞かせて頂いたんですが、深井さんのお話の中で首尾一貫しているのは「人と人との繋がり」ですね。やっぱり酒は人と人との潤滑油ですね。一杯やっていると、良いアイディアも浮かびます。翌日になると忘れちゃうのが残念なところですが(笑)。IMG_2330

深井 実は、友達と飲み屋での打合せを録音してみたら、翌日に聞くと死にたくなるくらい恥ずかしかったです。飲みの席でメモを取るのはやめようと思いました(笑)

市川 仰るとおり。今日は、とても参考になりました。

深井 こちらこそとても勉強になりました

市川 どうもありがとうございました。また今度、中野のお店で、ゆっくりお話しましょう。

次回は中野経済新聞編集長の杉山司さんにご登場願います。乞うご期待!


 

【過去のシリーズ】
その8:谷津かおり(株式会社オフィスエル・アール代表取締役/中野21の会会長)
その7:宮島茂明(中野区観光協会会長/中野法人会会長)
その6:折原烈男(中野区商店街連合会名誉会長)
その5:飯塚晃(JR中野駅第52代駅長)[前編]
その5:飯塚晃(JR中野駅第52代駅長)[前編]
その4:藤原秋一(エフ・スタッフルーム代表取締役)[前編]
その4:藤原秋一(エフ・スタッフルーム代表取締役)[前編]
その3:土橋達也(土橋商店)[後編]
その3:土橋達也(土橋商店)[前編]
その2:長谷部智明(立ち飲み居酒屋パニパニ店主)[後編]
その2:長谷部智明(立ち飲み居酒屋パニパニ店主)[前編]
その1:大月浩司郎(フジヤカメラグループ会長)[後編]
その1:大月浩司郎(フジヤカメラグループ会長)[前編]

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